Thursday September 03, 2009 at 22:07

“「愛は負けても親切は勝つ」。これがヴォネガット最大のテーマである。彼のエッセイでそれを知って以来、僕はこの言葉を至るところで引用してきた。とりわけ治療場面で。治療が不可能な患者であっても看護は可能であるように、かけらも愛がなくても「親切」にすることはできる。ニヒリズムの極北から生まれたこの思想が、このうえない寛容さにつながることは、アイロニーなのかユーモアなのか。もちろん後者だ。
 ヴォネガットのユーモアは、廃墟の中で、どうしようもなく孤独な人間によって発揮されるそれだ。それは無残なトートロジーであり、しばしば誰に向けられたともつかない独語の形をとっている。一つの絶望から生み出される、軽妙きわまりない表現。「ハイホー。」「そういうものだ。」「プーティーウィッ?」その他いろいろ。”

斎藤環【カート・ヴォネガット 「無害な非真実」の伝道者】